解説 5月31日B

今回の学習項目です。


ハッシュ法

教科書の4.2節(37ページ〜39ページ)を読んでください。

n個のデータがソートさえしてあれば、そのデータに対して二分探索するための計算量は O(logn)である。 しかし、そもそもn個のデータをソートする計算量は一般に O(n logn)である。

それに対してハッシュ法は、検索の計算量がO(1)(つまり、データの個数に依存しない、 一定の回数で探索できる)と高速である。ただしハッシュ法で探索するには、 ハッシュテーブルと呼ばれるものを作らなければならない (二分探索においてデータをソートする必要があったように、何事も準備が必要)。 しかしこのハッシュテーブルの作成の計算量はO(n)とかなり小さなものである。

ハッシュ法はこのようにとてもよい探索法であるが、唯一の欠点はハッシュテーブルを作成、記憶するために必要なメモリが大きいことである。 ただし、大きいと言っても、2n以上の大きさがあればよいので、実用上はあまり問題にならない。

ハッシュ法の中心は、データを記憶するための配列と、配列の指標を計算するためのハッシュ関数である。ここでデータは「キー(key)」と格納すべき「値」という二つの要素を持つものとする(ここで、キーと値が一致しても構わない)。 ハッシュ法における探索では、まずキーを「ハッシュ関数」によりある範囲の整数に変換する。 この数をハッシュ値という。 そしてこのハッシュ値を指標として配列の要素を取り出す。これが記憶されたデータ(の「値」)に相当する。 みて分かるように、ハッシュ法における探索で必要な手間は、キーをハッシュ関数により数(ハッシュ値)に変換すること(これ自体は計算量O(1))と、配列から指標により要素を取りだすこと(これも計算量O(1))だけである。このような理由からとても速い探索なのである。

しかしながら、世の中には落とし穴がいくつかある。ハッシュ法では次のような落とし穴が待ち構えている:

ここではこの2点について考える。

なおこれにはいろいろな解決策がある。 どのような解決策をとるにせよ、それぞれの問題に対する解決策を実装して、ハッシュ法により探索が行えるようにしたデータ構造をハッシュテーブルという。

ハッシュ関数

データを記憶するための配列のサイズをmとする。 ハッシュ関数はキーを0からm-1までの整数に変換する関数である。 こうすれば、ハッシュ関数の値を配列の指標として使える。

具体的に書こう。格納すべきデータ(のキー)を S ={x1,x2,…,xn}とし、データを記憶するための配列をAとする(配列の大きさはmとする)。ここで簡単のため、xiは数としよう。 ハッシュ法で探索するには、どの項目xi も配列Aのどこかに入れなければならない。 そして、なるべくデータがAの中に散らばって入るようにしたい(少なくとも、同じところには入れられないので)。こここでデータxiに配列の指標を与えるのがハッシュ関数である。

この条件を満たす関数の候補はたくさんある。

候補1が論外ということはわかるだろう。これだと条件は確かに満たしているが、どんなデータに対しても同じ数を割り当ててしまう。 それに対して候補2は教科書で例として挙げられているものである。しかしこれも異なるデータに同じ数を割り当てる可能性が高い。 候補3や候補4はRubyのようなプログラミング言語で実装されているハッシュ関数である。これらはかなり工夫され、キーに対してなるべくいろいろなハッシュ値を返すよう工夫されている。

課題1-1

Rubyでは、ハッシュ関数としてどのようなものが使われているかをウェブページやマニュアルなどを使って調べ、その仕組みをなるべく具体的に説明せよ。

課題1-2

キーが数ならば剰余関数でもハッシュ関数として使えなくはない。 しかしキーが"abc"のような文字列では(そもそも割り算ができないので)剰余関数は使えない。 そこで、キーが文字列の場合でも数を返すようなハッシュ関数を作りなさい。 そして、そのハッシュ関数が"abc"と"abcdef"に対してどのようなハッシュ値を返すかを示しなさい。 ただし配列のサイズmを113とする。
[ヒント]
文字は計算機の中では数として表されています。特にアルファベットの場合、 その数のことをASCII(アスキー)コードと呼んでいます。 次は文字列"ABCxyz"を構成する一つ一つの文字のASCIIコードを表示するプログラムです。これをもとに考えてみてください。
 str = "ABCxyz"           # 対象とする文字列
 for i in 0..str.size-1   # iを0からstr-1までの数として、以下を繰り返す
    p str[i]              # 対応する文字のASCIIコードを表示
 end # for i
この結果は次のとおりです:
65
66
67
120
121
122

ハッシュ値の衝突

どのようにハッシュ関数を工夫しようとも、データ数が多くなると、異なるデータが同じハッシュ値をもつことは避けられない(つまり違うキーに対しハッシュ関数が同じ値を返すことが起こる)。 この現象をハッシュ値の衝突という。

教科書39ページにあるように、データ数がnであるとすると配列の大きさmを 2n程度にとれば、探索の計算量がO(1)というハッシュテーブルが作成できることが知られている。 しかしこのように配列の大きさを十分大きくとったとしても、それでもハッシュ値の衝突は確率的に起こるのである。

このための対策として以下のような方法が考えられている:

教科書ではチェイン法が紹介されている。ハッシュ値の衝突が起こることを予め想定し、 ハッシュテーブルの要素はリストとする。そして、まずキーに対するハッシュ値からハッシュテーブルの要素(リスト)を取り出し、次にリストの要素とキーを一つずつ照合して、目的のデータを取り出す。 この方法は間違いのない方法であるが、ハッシュ値の衝突の頻度が高いと、リストの長さも長くなり、したがって探索の効率低下を引き起こすという問題は残っている。

課題1-3

ハッシュテーブルのための配列の大きさm=20、ハッシュ関数h(x)=x % m(つまり整数xをmで割った余り)としたとき、次の10個の数を格納するハッシュテーブルを作れ。ただしハッシュ値の衝突の対策として、(1)線形探査法と(2)チェイン法、のそれぞれによるものを答えること。

   32, 76, 105, 200, 282, 888, 28, 168, 56, 1219


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